翼 翔太様作品

境界

足の裏に丸みのある石の感触を感じながら歩を進める。少し力んでしまい、足の下や近くの石が転がり、体のバランスを崩しそうになった。 「おっとっと」  なんとか尻餅をつくことなく、体勢を立て直したカイは進んだ。しばらくすると石には角が立ってゴツゴツしたものに変わってきた。 「こけたら絶対怪我するな、これ」  カイはより慎重に進んだ。
句礼字頼太様作品

狼男の願い事

夜の帳が降り、空には月が昇っていた。  人の気配がまるでない草原を、一人の男が歩いていた。 「ああ、また満月の晩が来てしまった」  深い溜息とともに肩を落とす。見目麗しい青年だったが、何かを恐れるように暗い表情をしていた。
翼 翔太様作品

歌の結び糸

苔と申し訳程度の雑草。ごつごつとした地面と岩壁。それがカテリーナの七歳からの住み家だ。カテリーナの中で一番古い記憶はきらびやかな部屋と長い廊下、シャンデリアのかかった天井だ。かつての家である王都の城には今の政権を握っている男が住んでおり、父親はこの世を去り、母も別れてからはどうなったのか知らない。
翼 翔太様作品

見送る恋

森の中で複数の馬の足音が響く。先頭には女性と男性を乗せた馬、その後ろから追いかけてくるのは、人ならざるものだった。上半身は人だが下半身は馬である、ケンタウロスだ。追いかけられている女性の耳は尖っており、黒い瞳孔も縦に割れている。細やかなレースのドレスは膝上くらいまで引き千切られていた。 「姫様、お戻りくださいっ」
翼 翔太様作品

舞踏会の演奏

ぽろろんっと最後に竪琴の音が鳴った。拍手が起こりマリアーナはお辞儀をした。二つに結っている三つ編みが垂れる。彼女の前に置いてあった箱の中にお金が溜まっていく。そのお金を持ってマリアーナは市場へ向かった。「日持ちのするパンはどれですか?」「...
ねど様作品

歌が響く滝壺になるために

「本当に最悪!ジェラームス!あなたのせいよ!」 円形状の滝壺に囲まれた岩の上、そこに一人の女性と馬がいた。馬の傍に座り込んだ女性は、夜の闇のように美しい黒髪を一本にまとめ上げ、それを風に揺らしている。優しい大地と同じ色をした馬は、女性の顔の隣へ首を垂れていた。 「しかしティウラ様、私とてまさかこんなところで羽を奪われるとは思ってもおりませんでした」 「言い訳は無用!アルオーの街天馬から借りた羽を水の妖精に奪われるし、歩いても飛んでも移動できない滝の真ん中に降りるし、これじゃあ明日の歌の披露会に間に合わないわ!」 「滝の真ん中に舞台があるなんて珍しい、と言ってここに降りることを強要したのはティウラ様ではありませんか……」
翼 翔太様作品

氷の花の愛

はらはらと花びらのように雪が舞う。それはこの世界では日常だった。 赤い毛糸の帽子、臙脂色のコートに身を包み、真っ白なスケート靴を持って一人の少女が外に出た。傍らには少女の身長とそう変わらない大きさの狼がいた。 「ディリヒラ」 名前を呼ばれた少女、ディリヒラはふり返った。玄関には母親が立っていた。
巫夏希様作品

魔女の願い

鬱蒼と生い茂った森の中、私は歩いていた。 どんな願いをも叶えてくれるという、魔女を探して旅をしていた。 どんな願いをも叶えてくれる、というのだ。代償は今更惜しむこともあるまい。しかしながら、命を授けよ、と言われたらどうすれば良いだろうか。私は考える。私は悩む。流石にそこまで言ってこないかもしれないが、しかしながら、相手は魔女だ。所詮、この世界では影を潜めて生きている人種に過ぎない。その魔女がどんな願いをも叶えてくれるというのだ。
巫夏希様作品

天空都市

天空都市マヌエラ。その都市には、どんな金銀財宝をもしのぐような宝が眠っていると言われている。 「天空都市マヌエラ……」 白いワンピースを着た少女は、崖の上からマヌエラを眺めながらそう言った。「気になる、かね?」 隣に立っている老齢の男性が、ひいふう息を立てながらそう言った。
翼 翔太様作品

変狼

今夜もどこからか狼の遠吠えが聞こえる。心地よくも恐怖を感じるその声をウォルはベッドの中で聞いていた。「この声は誰だっけ。……そうだ、肉屋のおじさんだ。あの人の声はちょっと低めだから」あちこちから狼の遠吠えが聞こえる。けれど襲われることは決してない。この村に住んでいる人間は、変狼族という一族でだれもが狼に変身できる一族だ。
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