雪のように

Meme11様作品

私は気がついたら雪山にいたことがある。もうずっと、ずっと昔で、まだあなたと同じ背くらいのころね。冗談なんかじゃないわ本当のことよ。
とても寒かった。コートを着ていないと思えるくらいに冷えて、その上に風は強い。視界は真っ白で1メートル先も見えない、まさに猛吹雪の中だった。
ここはどこ? お母さんは? お父さんは? お気に入りの暖炉で温まっていたはず、そもそもコートも着ていなかったはずなのに。不思議よね。
頬にはまだ暖炉で熱の余韻があった。冷たい風が直ぐにかき消していったから幻のようだった。雪の中にいること自体が幻だと思ったけどあの寒さは本物だった。

とにかく歩いた、止まってたら凍えてしまうもの。それに背中から吹き付ける風に倒れないようにすると自然と足が前に出て歩いてしまうというのもあって進み続けた。
今にして思えば背中を押されていたのね。あなたの行く場所はあっちよ、とね。
どれくらい歩き続けたか。体が冷え切って、雪と風の冷たさの区別もつかなくなるくらいになったころ急に風が止んだの。視界が開け、さっきまでの荒れようが嘘のようだった。
そこにあったのは一件の小さな家。幼いころ母に何度も読み聞かせてもらった童話や絵本に出てくるような可愛らしい家だった。

普段なら行儀よくノックするとこ、でも極寒の雪山で震える私はおかまいなしに転がるように……いえ実際に転がって入ったわ。疲れと寒さのなか最後の力を振り絞って入り込んだの。
家に入るとバタンと大きな音をたてて扉がしまった、きっと風のせいね。中はとても暖かった。柔らかいハーブの香りがあって、吸い込むと心も温めてくれるようだった。

そこには何がいたと思う? そこにはね、妖精がいたのよ。そうね丁度あなたの掌くらいの背で小さくて可愛らしい女の子で、キラキラした虫のような透明の羽で私の周りを飛び周って出迎えてくれたわ。「やっと来たのね! 待っていたの!」ってね。
妖精がいるってことにはビックリしなかった。だって当時は妖精は何処かにいるって考えていたし、それは今でも変わらないのは彼女のお陰ね。

何で私の事を待っていたの? ここはどこ? 私は尋ねてみた。でも妖精は答えず、飛び周ってなにやら独り言を言っていたの。小さいから良く分からなかったけど、これからの段取りか何か、やらなくちゃいけない事を整理しているようだった。そしたら急に私の方を振り返って「ああ、ごめんなさい! 寒かったよね。いま温かいものを出すからそこに座って」と言って私を木の椅子の方へ座らせた。

妖精はキッチンを飛び周ってティーカップや茶葉を用意し始めたの、それが人間用のサイズだから少し大変そうだったから私は「手伝おうか?」って言うと「いいの。そこで待っていて」と言うの。でも私ってそういう時じっとしていられない性分でしょ。つい手がでてしまって、私の悪い癖ね。すると妖精さんは「まぁ、どうしてもというなら」と許してくれた。「大きい体っていうのも悪くなさそうね」と笑っていたわ。
それから二人でお茶を飲んで温まった。ハーブの甘い、いい香り。何かは分からなかったけど、部屋を満たしていた匂いはこれだって直ぐに分かったわ。

「あなたは必要とされて呼ばれたの」急に改まって真剣な表情だった。
「どうして?」
「呼ばれたのは、悲しみを、特に寂しさを持っているでしょ? だからよ」
少しもピンと来なかった。お母さんもお父さんも、お姉さんもいる。友達だってたくさん。寂しい事なんてないよ。と言うと妖精は凄くびっくりして、目を細くしてね。おかしいなって顔をするの。

「あなた名前は?」
「マリア」私の名前を聞いたとたん妖精はロケットみたいに扉に飛んで行って空に向かって叫んだの。すごく驚いた。あんな小さな体からは想像もつかないような大声だったんだもの。
「あなた間違えてるじゃない!この子はマリア!呼ばなくちゃいけない子はアリア! ア・リ・アよ!」
そしたら風がゴウー、ゴウーって吹いて、まるで返事をしているようだった。
「一文字違うだけ? 一文字でも違ったら別人なの!! はぁ、これじゃ人さらいじゃない…… 良い?名前って言うのはね!」
ひとしきり妖精がどなって、終わるころには風の音はなんだか弱々しくなっていてヒュー、ヒューって、どうやら相当、妖精のお叱りがこたえたようね。
「ごめんなさい。人違いで連れてきてしまったわ。もちろんお家に送るから、でもどうお詫びしたらいいか……」妖精は小さな体をさらに小さくさせていた。
「ここのこと教えて、それで良いよ」
「それでもいいの?」
「せっかく来たんだもの知りたいじゃない」
そうしたら妖精は元気になった。

「ここはね、誰かの悲しみや寂しさを雪に変えるところよ」そう言って得意げに胸を張って指さす方には暖炉があった。「この暖炉はね、魔法で作られていて特別なの。ここで薪と一緒に悲しみや寂しさを燃やすのよ。すると青い炎が燃え上がり、光る小さい粒の混ざった煙が煙突を通って、雲になり、雪を降らせる。雪の……全部ではないけど、まぁ半分のその半分くらいはそうね」
事故、戦争、理由は様々。独りになった子どもを見つけ、その悲しみを雪に変える。そしてそれがその子らの癒しになると、それが妖精の仕事なのだそうよ。

胸に冷たいものを感じたの。小さいけども氷のような、それが正しい表現かは分からない。でもそれが一番近いと思う。すると少しだけ暖炉に火が灯ってね、一瞬だったけど綺麗な結晶を、とても綺麗な雪の結晶だった。
「優しいのね、誰かのために悲しんでくれるなんて。さぁ送ってあげるわ。間違って来てしまった子が長居すると良くないから。もう二度と間違って呼ばないし、ここに来ることが無いように祈ってる」

風が吹き、扉を押しのけ家の中にまで雪が入ってくるとあっという間に視界は真っ白になって、ここに来た時のように何も見えなくなったの。ただ風はちょっと撫でるような優しいものがあった。

それから気が付くと、暖かいベッドにいたのよ。さっきまでのことは夢だと思った。でもね、私の鼻にはまだあの紅茶の香りが残っていた、すぐに掌の上の雪のように消えてしまったけどね。
雪の日はあの山を思い出す、雪の冷たさは誰かの悲しみを思う。春が来て溶けて消えていくといいなってね。

作者紹介

≪作者名≫
meme11

≪作者連載先≫
TwitterID:@legomasa_11meme

≪作者紹介≫
ツイッター、カクヨムでファンタジーな小説を公開しています。気付くとドラゴンで村を焼いてしまいます。

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