格闘家は延々と拳を打ち出し続ける

ねど様作品

闇の王が現れしこの世界。人々は多くの魔法生物―魔物―に命を奪われ、抗おうにも倒せる人間も少なく、世界の半分は闇の王に支配されつつあった。
 そんな世界で、四人の男女が闇の王を倒さんと旅をしていた。剣技を身に着けた、所謂勇者と呼ばれる青年。その青年の幼馴染であり、治療魔法に特化した僧侶の少女。素早い動きが自慢の盗賊の男。森で育ち、遠方から弓での攻撃を得意とする狩人の女の四人であった。
 四人はそれなりに戦えてはいたが、決定打を撃てる者が勇者以外いなかったので、日々の戦いの中で戦力不足を感じていた。そんな中、ある時立ち寄った村でこんな噂を聞いたのだ。
 
 「人の声にも反応せず、延々と拳を撃ち続ける格闘家が山に籠っている」
 
 周りの声にも耳を傾けず、ひたすらに拳を撃ち続ける修行法。そんなことをしている人ならば、きっととても強いに違いない。どんな理由でそのような修行をしているのかはわからないが、闇の王の討伐に力を貸してもらえないか尋ねてみよう、と四人は意見を合わせた。
 早速、翌朝に四人は噂を聞いた村から出発し、格闘家が籠っているという山へと歩を進めた。道中、魔物が現れて足止めをしてくるが大した敵ではない。だが、山を登っていると、段々頂上へ向かっていく毎に魔物も強さを増していった。
 
 「こんな連中の中でずっと修行しているんだ。それだけ強い奴なんだな」
 
 道中、盗賊がそう言った。
 
 「ああ。流石にこの魔物の中を籠りっぱなしで修行なんて、僕にはとてもじゃないけど出来ない」
 「私も森に居続けたことはあったけど、一か所から移動しなかったわけじゃない。どんなところでも、留まり続けるならそれなりの強さが必要よ」
 「そんな人たちがあたし達の仲間になってくれたら、すぐにでも闇の王を倒せに行けそうだね」
 
 その後を勇者、狩人、僧侶が各々の期待を言葉にする。
 格闘家に合うための道のりは、とても険しいものだった。魔物だけではなく、山を登るにも道がきちんと整備されているわけではない。時々物好きな旅人が通るくらいにしか使われていないので、道という道は無いに等しかった。そんな自然の驚異が四人の前に立ちはだかっているのである。
 しかし四人は諦めなかった。闇の王を倒すには格闘家の力がいる。そう信じていた。
 
 何度目かの山中での野宿を終え、四人が歩を進めていると、木が倒れ、開けている場所へ出た。木は斧などで切られて倒れたというわけではないようで、打撃痕が残っていた。根元から折れて倒れたようだ。根元からは、新しい芽が逞しく育っていた。
 
 「す、すごい……これきっと、噂の格闘家さんがやったんだよね……」
 
 僧侶が木を跨ぎながら言う。きっとそうだろう、と勇者が頷いた。
 
 「木だけじゃないわ。古いけど、魔物の死体や骨、毛に羽も落ちてる。拳一つで倒し続けていたのね」
 
 狩人が辺りの地面を見回しながら言った。すると先を行っていた盗賊が、三人を呼んだ。
 
 「きっとあの人じゃないか」
 
 そう言って盗賊の指差した方向には、一人の女性がいた。山の頂とも言える場所で、ひたすらに拳を撃ち続けている。一切のブレもないその拳の撃ち出しに、思わず一行は見惚れていた。
 
 「素晴らしい。力強い突きだね」
 
 勇者は、間違いなく自分たちのパーティに必要だと感じていた。それほどまでに、格闘家である女性の突きは見事なものだったのだ。
 
 「あの、こんにちわ」
 
 早速勇者が格闘家に駆け寄り、話しかける。しかし、格闘家は答えない。全く勇者の方に見向きもせず、ひたすらに突きを繰り返している。盗賊はそれを見て、ははは、と苦笑した。
 
 「やっぱり噂通り、人の声に反応しないのか」
 「それなら、ちょっと乱暴だけど……えい!」
 
 狩人が格闘家の足元を目掛けて矢を放つ。勿論、注意をこちらにひかせるためのものであって、当てようというつもりはない。目論み通り足元に矢が刺さったが、格闘家は反応を一つも見せなかった。
 
 「……この人、そもそも私達のこと見えてるのかな?」
 
 むう、と不満そうな顔をした僧侶は格闘家の前に立ち、目の前で手を振ってみせる。それでも格闘家は何も反応しなかった。まるでからくり人形のように、ひたすら同じ動きを繰り返している。勇者達は、何かがおかしいと感じ始めていた。
 
 「……ねえ、これ」
 
 そう言って僧侶は、格闘家の目先にある物を指差した。それは、とある魔物の持っている杖だった。禍々しい魔術を使う魔物なのだが、その杖からは何も感じられない。寧ろ杖は古ぼけており、半分ほど塵と化していた。
 
 「それは、相手の時を止めてしまう魔物の持っている……」
 「や、やっぱりそうだよね……。この人、もしかしたら……」
 
 そろり、と僧侶と勇者は格闘家を見る。格闘家はやはり真っすぐに前を向き、突きを続けていた。盗賊は頭の後ろをボリボリと掻きながら、僧侶へ尋ねる。
 
 「おいおい、まさか魔物の仕業でずっとこの状態ってわけか?お前の回復魔法でどうにかできないの?」
 「む、無理だよ……時を止めているのは魔法の力だけど、治療魔法とは分類が違うもん。もし動かすことができたとしても、進んでいない分の時間がこの人に反映されてしまったら……」
 
 僧侶の青ざめた顔を見て、狩人も思わず鳥肌が立ったのか、自分の腕を擦りあげた。
 
 「……私達にできることは?」
 「……ない、と思う……」
 
 勇者一行は押し黙る。格闘家の強い眼差しは遠くを見つめているように見えたが、事態が見えてきたことで、虚無を見つめているようにも見える。
 この格闘家の自我はどうなっているのだろう。それも止まったままなのだろうか。様々なことを考えた勇者一行だったが、自分達ではどうにもできないと、格闘家へ頭を下げ、山を下ることにした。
 早く闇の王を倒し、ああいった人たちも助けなければ、と勇者達は再度胸に誓うのだった。
 
 ――今日も山の頂で、格闘家は延々と拳を撃ち続ける。拳の先に、討たれる者はいなかった。

作者紹介

≪作者名≫
ねど

≪作者連載先≫

・TwitterID:@niconico_nedo
・ホームページURL:http://nanos.jp/geness11/

≪作者紹介≫
お話を書くのが好き。普段はダーク寄りの話をよく書いている。
最近カクヨムにも登録しました。よかったら読んでやってください。
→https://kakuyomu.jp/users/nedo_novel

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