砂の旅人

Meme11様作品

あの三角の山にはそれぞれに王が眠ると言う。入口は狭く、中は細く長く。でも誰も入った事がないのでどんな王が眠るのか知る人はいない。ただピラミッドという名前のついた人工の山だってことだけが口伝されている。
それぞの入口は王にまつわる動物の彫像があるのだけど、盗掘者が表面の金を削ってしまい、さらに風と砂がいつも撫でるものだから風化してもうなんの動物だったのか分からなくなってしまった。私はそれが残念だった。この旅の一つの楽しみにしていたのにあったのはそこに像の名残だけでなので、せめて盗掘者が金をそのままにしてくれていればまだ形が残っていたかもしれない。

 旅は孤独だ。長い旅になればなおのこと。いくつかの楽しみがないと孤独がすぐにすり寄って来てしまう。私は一人には慣れているけども、それでも時折寂しいと思う。道ずれのラクダたちはお喋りだけど私には口をきいてくれない。それはちょっと違うかな、実際は私に向かって話している可能性もある。でも私には動物の言葉を理解する術がないのが一番の問題だ。だから風の強い日の砂はチクチクと痛いけどお前たちラクダは毛皮と長いまつ毛があって羨ましいと独り呟き、喉が渇けば、お前たちの背中には水があってずるいと言って私にも水筒があるけどお前たちのように体に蓄えておくことができない、と一方的にまくしたてたりする。

 ラクダは家族のようなものだ。会話ができれば良いのにと愚痴をこぼすとフンと鼻をならすから多少はこちらの言葉を理解しているように思う、向こうは分かってこっちは分からない。やっぱり不公平だ。
会話はいつも一方向だけど止めたりはしない。これは気を紛らわすために自然に出てしまうのもあるけど多少は喉を使っておかないといざ誰かに遭遇した時に声が出ないのだ。
もちろんずっと独り言を言っているのは喉が渇くので水に余裕の無い時はなるべく控えるようにしている。それでも出てしまうのは私の性みたいなものかな。

 夜の砂漠は寒い。気温が下がるのは勿論だけど、地平線と砂漠の境界があいまいになる夜は特に。月は青く、月光が砂粒を輝かせ、私は天を歩いているのか地を歩いているのか分からなくなるときがある。
その寒さは楽しい。服の隙間に忍び込む冷気とこもった熱が混ざって漏れていき、足元に広がる星の砂は風に吹かれ砂の帯を作って消えていく。

 ふと崖を見上げると人影が見えた。たぶん祈りの人だ。砂漠を進む私のような旅人に向かって祈ってくださるのだ。
 松明を掲げただ真っすぐと立っている姿から海の灯台のような方達だと誰かが言っていた。ただあいにく私はまだ海も灯台がどんなものか知らない。聞くところによると海と砂漠は広大で厳しいとこが似ているらしい、灯台はそこを旅する船乗りの道標になるのだと聞いた。確かに祈りの人とその松明が見えた時は一人でない、まだ歩けると力をくれる。
 海を見てみたい。それもこの旅の楽しみの一つだ。辛い水とは一体どんなものなのだろう、塩の何倍も辛くしたものらしいけど。

 村を出てもうどれくらいだろうか。
 最後に私の名前を呼ばれたのはどれくらいまえだったかな。自分の名前を忘れることはないけど、砂漠を一人とラクダ三頭では誰も呼ばないのでいずれ忘れてしまいそうな気さへしてしまう。そういう時は「ナジャーハ、私はやりとげる」と唱えるの。私の父も母も、お爺様もお婆様も旅人だった。名前を付けてくれたのはお爺様で月の大きな日に生まれたと言っていた。名前の意味は成功だと言っていた。
 村と言ったけどもうその場所に村は無い。私達は移動することを定められ神の示すまま動き続けているので故郷と言う場所はない。ときどき子供が生まれると暫く一か所にとどまって、そこを村と言っているに過ぎない。だからか旅の途中、他の人と話をするとき村についての話題になるとお互いの認識がずれておかしな会話になることもしばしばある。でも私はあえて訂正しないでそのまま進めたりする。そうして最後に本当の事を話すと大抵笑ってくれる。もちろん中には不機嫌になってしまう人もいるのでさじ加減が大切だ。

 ラクダ達は今日もおしゃべりだ。あいかわらず私には何を言っているのか分からないけどもきっと休みたいとか荷物が重いとか、今日は一段と暑いだとか言っているのだ。
 私の旅の楽しみの一つに世界の果てを見つけるということがある。果てなど無いとよく言われる。たしかに果ては無いのかも、でも無かったらそれはそれでその先の景色を見たいと私の心は叫んで足を動かして。
もしかしたら素晴らしい所で見つけた人が知られたくなくて嘘をついているのかもしれない。それならそれでもっと見てみたい。太陽の昇る地の先、月の沈む場所、あの砂丘を越えれば果てかもしれない。上り切るとただ砂漠が続いているだけだけど私は楽しんでいる。あるかもしれない、やっぱり続くかもしれないってね。

 今日は久々に商人にあった。黄色いターバンに大きな荷物を背負っていた。
 都の品だと高そうな小さな壺を取り出したり、病に効くからとしわだらけの太い何かの根を取り出して匂いをかがせてくれた。ただちょっと私の興味を惹くには物足りないものばかりだ。
 商人は最後に細い棒を取り出して見せた。「棒じゃない。楽器さ。南の地から流れてきた珍しいもんだ」と言う。古く色もくすんでいる。いくつか買った日用品のおまけだと私にくれた。

 楽器に触れたことはあるけども笛は初めてだった。
 その夜さっそく吹いてみた。商人に簡単にだけど教わった通りにやってみるが空気の抜けるような情けない音が出るばかりでちっとも綺麗な音なんて出やしない。あの商人はあんなに簡単そうにやっていたのに。ラクダ達はその様子を鼻で笑っているようにひそひそと。捨ててしまおうかと思ったけど笑われたままでは悔しいので続けることにした。あいかわらず情けない音がでるだけ、だけどこれも悪くない。
 夜の砂漠にいつか綺麗な音をきっと響かせてやろう。曲が吹けるようになったら私の名前を付けてもいいかもしれない。

作者紹介

≪作者名≫
meme11

≪作者連載先≫
・TwitterID:@legomasa_11meme

≪作者紹介≫
主にツイッター、カクヨムで主にファンタジーな小説を公開しています。気付くとドラゴンで村を焼いてしまいます。

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