夏休みは鎧武者

Meme11様作品

 学校の裏には山があって鎧武者の幽霊がでる。ぼく達の友達である。

 夏休み。友達と四人で肝試しに行こうと言う話になった。長い夏休みの始まりにはうってつけのイベントだ。我ながら良い提案をしたと思う。
 場所は学校の裏の山だ。綺麗な川があって、蛍がいることで地元ではちょっとだけ有名だった。その川をスタート地点にして、山道を登り、上にある神社に行って帰って来る。神社にあらかじめ置いておいたビー玉を持ち帰って証拠にすることにした。

 夕方になって皆集まったところで開始だ。と思ったけど今日の雰囲気はちょっと違った。いつもミンミンうるさいセミがやけに大人しい。空気もどんより。川の傍は少しだけヒンヤリしているのだけど、しすぎているような気がした。
 それになんだか蛍がいつもより多く飛んでいる。なんだか大きいのが混ざっているし。ユラユラ、ふらふら。草には一向にとまらない。皆が妙な違和感に包まれた。

「でっけえ蛍が飛んでる! 捕まえよう!」とたっくんの一声でそんなのは吹き飛んだ。たっくんはぼくらのムードメーカーだ。 
 孤立して飛んでいるのが捕まえやすそうだ。ちょうど虫取り網もあることだし。でも誰のだろう。
「大事に使ってよ」
「ちゃんと使うよ。でもなんで虫取り網持ってきたの?」
「必要かなって」
 へんなの、今日は虫取りの日じゃないのに。
 今はそれより巨大蛍だ! えい、と振って捕まえた。と思ったらするりすり抜けている。
「へたくそー」とリョウがからかう。
「じゃあやってみなよ」
「任せとけって」
 それから二回、三回振ってやっと捕まえた。ぼくだってそれくらいやったら捕まえたさ。でも今は確認が先。どれどれ……羽が無い、脚も無い? それに燃えている? 虫取り網にいたのは蛍じゃなくて人魂だった!

 普通は驚くところだけど。ううん、もちろんぼく達も驚いたけど少し違う。「うわ人魂だ! すげぇ!」「持って帰ろう!」「動画とったらバズるよきっと!」「人魂って天然記念物だったりする!?」「もしかして飼うつもり?」とにかく騒ぎまくった。
 今思い返すと騒ぎまくったからあの時の鎧武者はきっと困ったんだと思う。思った反応と違うぞ、こいつら怖がらないぞって。

 最初に別の異変に気付いたのはヒロだった。「なんかあそこにいない?」太い木の影を指すけど暗くて良く見えない。ぼくが懐中電灯を向けると木の影から覗く人が見えた。鎧武者だ。教科書で見たまんまの鎧武者だ!
 バレた! タイミングを逃した! そんな顔だった。でもバレたからにはそれっぽく振る舞うのが幽霊だ。刀を振りかざしぼくらに向かってきた。
 人魂でハイテンション極まったぼく達にとってそれは焼け石に水(表現があってるかわからないけど)、ぼく達の興奮度はさらに上昇。「刀だ! 妖刀ムラマサだ!」「武者がいるぞ! みんなかかれー!」と叫ぶたっくんを先頭に突撃が始まった。ヒロはホラ貝の真似なんかしていた。

 鎧武者は予想外の突撃に一瞬怯みはしたものの、直ぐに持ち直し斬りかかってきた。最初に斬られたのは先頭のたっくんだった。
「ギャー……って痛くないじゃん」当然だ。その刀も幽霊なんだから通り抜けるだけ。
「あ、お前今斬られたな。死んだぞコイツ! みんな下がれ! 斬られるとゾンビになんぞ!」ぼくの一声でみんなが立ち止まる。
 じわりじわり、たっくんと鎧武者から距離をとる。鎧武者はぽかんとしていた。
「ゾンビじゃねぇし! じゃぁお前避けてみろよ」
「あんなの当たんないもんね。いくぞ! おりゃ!」
 ぼくの突撃! 落ち武者の袈裟切り!
「あ!」無理だった。避けようと思ったら斬られてる。刀が体を通るときはちょっとヒンヤリした気がする。周囲がヒンヤリするのはこれのせいかな?
「はいお前もゾンビー」
「えー」
「じゃ次はおれね」ヒロの番。鎧武者の突き攻撃。はい、ヒロもゾンビー。
「なんだよ皆だせーな」とリョウが得意げに言う。リョウは剣道をやっている。もしかしたら……!
「早く避けてみろよ」「お前もゾンビになれー」「剣道家のいいとこみたいなぁ」とはやし立てる。
「見てろよ。……はんにゃーはーらみった―」
「あ、お経はずるいぞ!」
 リョウは寺生まれなのだ。
 ちょっと苦しみだす鎧武者。刀を持つ手が震え足も覚束ない。ずるだけど行けそうだ!
「ぐあー!」リョウもゾンビになった。
「だめじゃん」
 なんだあっけない。小学生軍はたった一人の鎧武者にゾンビにされてしまった。
 鎧武者の幽霊を恐れるどころか向かってくる小学生に対して鎧武者の顔は困惑でいっぱいだ。ぼく達がゾンビとなってお互いを襲っている隙をついて逃げ出していた。
「あれ? あ、逃げたぞ! 追えー!」気付いたのはやっぱり、たっくんだ。
「とらえろー!」
 鎧武者と小学生ゾンビ軍の追跡劇が始まった。もう肝試しなんて、だーれも覚えてない。

 鎧武者の足は速い。鎧を着てるのにまるで着ていないみたいだ。ここにいるのはクラスでもそれなりに速いのが揃っているのに差は開く一方。
「くっそー追いつけない」息を切らしながらヒロがぼやいた。
「おれに任せろ!」そう言ったのはリョウ。必殺のお経攻撃だ。ふらふらと千鳥足になり鎧武者の足取りが遅くなったぞ。
「いいぞリョウ。いけいけー!」ぼくも少しだけお経を覚えてみたくなった。

 ちょっと苦しそうな鎧武者。刀を離し突然の急ブレーキ。振り返って流れるような土下座。
「驚かそうとして済まなかった。たのむ、見逃してくれ!」
 ぼく達も急ブレーキ。土下座した鎧武者の前で五人は肩で息をしながら互いを見た。
「お経だけはこの通りだ。止めてくれ……世界が回る」
「どうする?」たっくんがわざとらしく外人みたい肩をすくませた。
「どうするったって……なぁ?」「さぁ?」「わからん」「肝試しにきただけだし」
 皆がその場の勢いに飲まれていたので突然に土下座されても困る。こういう時はどうすればいいのだろう。
「じゃぁ、また遊んでよ」そう切り出したのはヒロだった。ヒロは時々変なことを言う。でも確かに良い事かも。鎧武者の幽霊と友達になったら、きっとそれはぼく達が世界初だ。
「ともだち?」鎧武者が顔を上げ、訳がわからないという表情を見せた。
「そ、友達。よくない?」
「あ、そしたらおれ自由研究に鎧の事調べたい」
「たっくんずるい。一緒に決めるって約束したじゃん」「そうだぞ!」リョウとぼくは抗議した。
「じゃあみんなで一緒にやろう」
「いや、ちょっと……じゆうけんきゅう?」
「断ってもダメだぞ。こっちには寺生まれのリョウがいるんだ」ぼくはリョウを指さす、リョウは手に忍術みたいなサインを作って見せた。
「わ、わかった! 友達にもなるし、その〝じゆうけんきゅう〟とやらにも付き合う!」
 決まりだね! これがいきさつ。

 それからは山の神社がぼくらの遊び場になった。もちろん鎧武者もいる。最初は戸惑っていたけど、鎧武者もだんだんなじんで昔の話とかいろいろ聞かせてもらった。かわりにぼくたちも現代の事を話して、そのおかげかちょっとだけ日本史に詳しくなった。
 五人で鎧武者で遊んで、山を走り回っているうちに夏休みはあっという間だった。夏休みが終わって行く機会は減ったけど、今でもぼく達五人と鎧武者との交流は続いている。
 ただ一つ分からない事がある。ぼくと、たっくん、ヒロにリョウ……なんだけど五人目の名前と顔がどうしても思い出せないのだ。

作者紹介

≪作者名≫
meme11

≪作者連載先≫
・TwitterID:@legomasa_11meme

≪作者紹介≫
主にツイッター、カクヨムで主にファンタジーな小説を公開しています。気付くとドラゴンで村を焼いてしまいます。

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