始まりは願いから

遊佐堂様作品

 おまじないをするには誰もいないときにするべき、真夜中がいい。真夜中は何かをするときには都合がいい。
 魔女に教えてもらったまじないを今日もやってみる。
 身を清め、花を片手に森に入る。真っ暗闇な深夜で危ないところは森だけじゃない、お父さんとお母さんの部屋には入っていけないと近所のペーターが言っていた。なぜだめなのかわからない。聞こうとしたらペーターのおばさんがげんこつをペーターにして、それっきりになったから。多分、大人の禁断の世界に入っちゃったからペーターは叱られたんだなと思う。


 「お願いします。魔女様」
 魔女様、村の一番の賢者でもある。夜のときしか動かない人。昼間は眠って、夜は思いっきり活動する。夜のときしか解決できないことがあるらしい。魔女様は変わり者で弟子を取らないということが有名である。他にも有名なことがある。独身というとキレるらしい。
 「……向日葵か」
 ふんわりと魔女様が現れた。魔女様は私が持ってきた向日葵を丁重に受け取ってくれた。
 「わーい、魔女様」
昼間に遊びで夢中の子供の私と夜に異変解決で精一杯の魔女様が会えるのはこの時しかない。魔女様は相変わらず美しい。少しふてぶてしいけれどキリっとした流し目に、すらりとした体型、ふんわりと波を打つ黒髪の持ち主で私の憧れを表している。
 「あんたか。願いはいつものあれだろ、弟子にしてくださいという」
 「はい、魔女様」


 魔女様は私を助けてくれたヒーロー。ガキ大将のペーターのいたずらで目隠しされてお化けや幽霊が出ると言う噂を持つ廃墟に連れていかれたことがある。その廃墟は本当に幽霊が出るというもので私は死ぬかもしれないというところに魔女様に助けられた。私は軽い神隠しに会っていたみたいで、私よりも少し年上のお兄ちゃんになったペーターに土下座されたときは驚いた。あの悪ガキ大将が土下座をするなんて思わなかった。私は自覚なかったけれど、よほどひどい目にあっていたらしい。助けられた私は魔女様を深く尊敬して、彼女みたいな大人になりたいと思うようになった。
 「ふう……どんなにおどんなに断ってもあんたは諦めるどころか、ますます燃えてきたもんな。そろそろこちらとしても覚悟を決めるべきか」
 「諦めるつもりはありませんよ。魔女様がいる世界を知ってしまいましたから」


私は本来訪れてはいけない場所、人々が寝ている間に起きる危険でかつ楽しい夜の世界に魅了された。魔女様が私を助けに来てくれた時に別件の修羅場があったらしい。それに巻き込まれながら私は彼女の戦う姿を見た。魔法は危険と隣り合わせだけど面白い。脳内がぱちっと花火のようにはじけるくらい、派手な戦いだった。
「あんたはあたいに似ているね。私もあんたと同じくらいのときに、師匠に出会ったんだ。夜の世界を忘れられなくて魔女見習いになった」
魔女様が私の隣に座って昔話をしてくれた。私と同じ年だったころの魔女様も、私と同じように自分の人生を切り開いていったという。


「魔女というのは孤独なものさ。平凡でありふれた生活に溶け込みながらも、一般社会から突出している存在、それが魔女。普通の生活から離れた世界にいる、それが魔女。だからこそ、魔女というのは親があまり快く思わない職業なのさ。私は魔女になると決めた時に、親と盛大に喧嘩をしちまってね。自分のやりたいことを引き換えに私は今までの私を捨ててしまったんだ。魔女になれたのは嬉しかったけれど、あの時はきつかったな。親父もおふくろも好きだったから大変だったぜ。今はもう、慣れたけどな」
国家の機密や人々の陰謀など表にはでない恐ろしいことをこれから見ることになる。私はほんの一瞬しか巻き込まれなかったが、魔女様と戦った敵は膨大で恐ろしかった。小さかった私よりも大きくて絵本でみる魔王のような相手だった。


「それを聞いてもあんたは魔女になりたいかい?」
「はい。なりたいです。あなたみたいに世界を駆けまわっていきたいですし、困った人を助ける善良な魔女になりたいです」
「いいねえ。魔女になりたいという心持、善良を目指す姿勢に孤独な現実というのを受け入れる器の大きさ。魔女の素質あるよ」
魔女様は立ち上がって箒を手に取る。
「わかった。これから手続きに必要な書類を作成する。あんたはご両親に伝えな」
 「はい、ありがとうございます」


 それから私は魔女様の弟子として働くことになる。魔女様はあの夜のことがすごく好きで酒に酔うと必ずこの話を語る。
 「本当、熱心なあんたに出会えてよかったよ。初心者の気持ちを思い出すきっかけになったもん。どんなあんたになるのか楽しみだ」
 「魔女様、酔いすぎですよ」
 身の回りの世話から戦いの手法などやることはたくさんある。疲れた時は魔女様が残してくれた押し花を見る。今まで私がおまじないをするたびに使っていた花は魔女様が押し花にしてくれた。壁に飾られたたくさんの押し花を見て今日も気合を入れる。
 「みんなの願いがかなえられますように」


 私は今日も魔女様と共に夜をかける。人々の願いをかなえるため、相手と格闘する。どんな火花が散るのだろうか。それを思い浮かべながら私は箒にまたがった。

作者紹介

≪作者名≫
遊佐堂

≪作者連載先≫
・TwitterID:@wakyo01

≪他サイトで連載中の作品≫
下記に他サイトで連載中の作品を記入ください。
・「残機ゼロ 予告」:https://www.youtube.com/watch?v=2tq3MEjeCbo&t=2s

≪作者紹介≫
歌舞伎や大相撲が好きです。
おまじないを研究中。

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