帰り道の魔法使い

翼 翔太様作品

 白薔薇が今日も誇らしげに咲いている。ここの薔薇はあっという間に満開になり、知らぬ間に枯れていく。そんな白薔薇が咲き誇っている屋敷の庭で、エレーヌはジャスミンティーを飲んでいた。ふわりと薔薇とジャスミンの香りが鼻を抜ける。翡翠色の水面にエレーヌの顔が写る。
 ゆったりとした時間を過ごしていると、使い魔でもある真っ白でほのかに光っている妖精がやってきた。

『エレーヌ、人間がきた』
『ぼくらの仲間が気に入ったみたい』
 妖精は気に入った人間がいると自分のものにしようとする。その人間が命の灯火を消してしまうまで、道に迷わせることがよくある。
「まったく……あの子たちも懲りないんだから」
 エレーヌはポットにジャスミンティーを残したまま立ち上がった。
「その人間をここへ連れてきてちょうだい」

 使い魔の妖精たちは白い粉をまき散らしながらエレーヌの元を一度去った。エレーヌは溜息を吐いた。そして白薔薇を見て回る。その中から朝露が残っているものを見つけだし、朝露とそれがのっていた花びらを回収した。そして屋敷の台所に入ってそれらを壺で煮こんだ。花びらは融けてなくなり水分も飛んでどろどろになっていた。そこにナナカマドを砕いたものを加える。そのままさらに煮こんだ。するとぼんっと一度音を立てた。
「よし、完成」
 エレーヌはどろどろになったそれを容器に入れた。容器の外側がほんのりを熱を持つ。

『エレーヌ、連れてきた』
『連れてきた』
「ありがとう。庭にいてもらってちょうだい。すぐに行くわ」
 エレーヌは容器と杖を持って庭に出た。
 真っ白な薔薇が満ちている庭では一人の少年が心細そうに立っていた。きょろきょろと辺りを見回している。髪は金色で白いシャツを着て紺色のズボンを履いている。エレーヌは少年に近づいた。
「あなたは妖精たちに気に入られてしまったのよ」
「……あなたは?」

 少年は一歩退いた。エレーヌは穏やかにゆっくりと言葉を紡いだ。
「私はエレーヌ。白薔薇の魔法使いとも言われているわ」
「白薔薇の魔法使い……」
 エレーヌは少年に事情を説明し始める。
「ここは妖精の国。あなたはここの住人である妖精に気に入られてしまった。このままではこの世を去るまでずっと迷うことになる」
「そんなっ。家で熱を出した妹が待っているんです。早く薬を買いに行かないと……」
「……妹さんの風邪はどんな症状が出ているの?」
「え……えっと、咳がたくさん出てのどが痛いって言ってました」
「くしゃみや鼻水は出ている?」
「ええっと、鼻はよくすすってました」
 エレーヌは身を翻した。

「いらっしゃい。妹さんの薬を作ってあげる」
「あ……ありがとうございますっ」
 背中から慌ててついて来る足音が聞こえた。エレーヌは少年に客間にいるように言うと、再び台所で薬を作り始めた。はちみつとラベンダーの精油、馬の妖精ケルピーの脂肪を加熱して塗り薬を完成させた。それを別の容器に入れる。瓶にはニワトコのシロップを入れると客間へ向かった。
 少年は大人しく座っていた。エレーヌは風邪薬をまず渡した。
「これは妹さんの胸元に塗ってあげてちょうだい。咳と鼻水をとめる薬。それからこっちの液体はニワトコのシロップ。喉にいいわ。水に溶かして飲ませてあげて」
「ありがとうございます。あの、お代はどうしたらいいですか?」
「あなたが無事に人間の国に帰ってくれるだけで十分よ。それからもう一つ。これはあなたのための薬よ」
 エレーヌは朝露と白薔薇の花びらで作った薬を差し出した。
「これは妖精から身を守るための塗り薬。彼らが苦手なナナカマドが入っているわ。まずは目の下と瞼、それから手足に塗って」

「あの……どうしてここまでしてくれるんですか? あなたも妖精なんじゃ……」
 エレーヌは首を横に振った。
「私は完全に妖精というわけじゃないの。人間と妖精のハーフで、半分は人間よ。でも妖精の血も入っているからここで暮らしているの。
 それにこの妖精の国は望んでいる人が来るべき場所だと思っている。人間の世界でつらい思いをしていたり、逃げたいけれどそんな場所がない人のための場所であればと思っている。だから多くの妖精のように、気に入ったというだけでここに連れてきたくないのよ。だから薬を塗って早く家にお帰りなさい」
 少年は頷いた。そしてその場でエレーヌが作った妖精除けの薬を塗り始めた。先程まで目の前の少年に対してなにも思っていなかったが、エレーヌに少年に早く去ってほしいといいう気持ちが芽生えてきた。ナナカマドのせいだ。
「薬もちゃんと効果が出ているようね。さあ早くお帰りなさい」
「はい、あの、ありがとうございました。白薔薇さん」

 少年は深くお辞儀をしてエレーヌの元を去った。
 エレーヌは再び庭に出た。ポットの中のジャスミンティーは冷めきっていた。温め直そうとポットを持ったそのとき、一人の妖精がやってきた。使い魔ではない。
『ちょっと白薔薇の魔法使い。きみ、また僕らの邪魔をしたね』
 どうやら少年を連れ込もうとしたのは目の前にいる妖精のようだ。
「あなたたちが気に入った人間を迷わそうとするように、私も迷っている人間に手を差し出すことには変わりないわ。何度文句を言いに来ても一緒よ」
『それでも言わないと気が済まないんだよ。まったく……せっかく気に入ってたのに』
 そう文句を言い残して妖精は庭から出て行った。エレーヌは困ったように溜息を吐くとジャスミンティーを温め直すために屋敷の中に入った。

作者紹介

≪作者名≫
翼 翔太

≪作者連載先≫
・TwitterID:@tubasa_syouta

≪他サイトで連載中の作品≫
・「ほおずきのランプ亭」: http://chillin.tutakazura.com/index.html(サイト)
             https://www.alphapolis.co.jp/novel/100153681/321198462(アルファポリス)
・「悲しみは純白」:http://chillin.tutakazura.com/index.html(サイト)
   https://www.alphapolis.co.jp/novel/100153681/822075276(アルファポリス)

≪作者紹介≫
仮面ライダー、戦隊を糧に日々を過ごしています。
現在『読み処Larus』という小説サイトを運営中。
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