舞踏会の演奏

翼 翔太様作品

ぽろろんっと最後に竪琴の音が鳴った。拍手が起こりマリアーナはお辞儀をした。二つに結っている三つ編みが垂れる。彼女の前に置いてあった箱の中にお金が溜まっていく。そのお金を持ってマリアーナは市場へ向かった。
「日持ちのするパンはどれですか?」
「これかね」
店主は茶色く丸いパンを指差した。マリアーナは言われたパンを買った。次に肉屋で調理された肉を、乾物屋で魚の干物と干し肉を購入した。
「寝袋はまだ大丈夫だし、壊れているものもない。無事明日にはここを出発できそう」
吟遊詩人のマリアーナは荷物を置きに宿屋に戻った。その日夕方に路上で、夜に酒場で歌声と竪琴の腕前を披露して路銀をさらに稼いだ。


 次の日の朝、宿をチェックアウトするとマリアーナは町を旅立った。マリアーナは一つのところにじっとしていることはなく、気分のまま旅をする。町や村ごとに違うところもあれば共通している文化や考え方などがある。それを知るのがマリアーナは好きだった。
町が遠く小さくなってきたころ、一面の草原に出た。青々とした草が風で海のようにゆらめく。
「きれい」
マリアーナは立ち止まり草の海を眺めた。満足すると再び歩み始めた。風が心地よい。マリアーナは頭の中で地図を広げた。今日の朝までいた町から次の村までは歩いて五日ほどの位置にあり、一本道だったはずだ。
「町の人たちもこの辺りには危ない動物はいないって言ってたから野営も大丈夫そうね」
マリアーナは軽い足どりで進む。行ったことがない場所を目指すときマリアーナはわくわくしてしまうのだ。


 町を出て二日後、景色は草原から岩山へと変わる。足場は少し悪くなっていた。それでも進めないわけではない。足の裏に少し大きくなった石の感触を楽しみながら進む。マリアーナはふと振り返った。沈みいく夕日に草や花が生え断面が見えている岩山。
「ずいぶん来たわね」
マリアーナは満足そうに笑った。
「よし、今日はこの辺りで野宿しようかな」
マリアーナは夜に向けて準備を始めた。テントを建て薪になりそうな草や枝を拾う。そし火打石を使って火を起こす。ぱちっぱちっと音を立てながら薪が燃える。
保存食で簡単に夕食を済ませるとマリアーナはぼーっと火を見つめていた。時々枝を足す。そのときどこからか声らしきものが聞こえてきた。マリアーナは耳をすました。
「どうしよう、もう時間がないよ」
「もうこのメンツでするしかないよ」
 そんな声が聞こえてきた。マリアーナは声がするほうへ近づいた。そこには楽器を持って植物のスカートやズボンに身を包んだ妖精が三人いた。
「でも竪琴がないとこの曲は演奏できない。それじゃあまるで蜂蜜のない蜂蜜酒みたいなものだ」
 三人の妖精は溜息を吐いた。マリアーナはそんな三人に声をかけた。
「あのー」
 三人の妖精は目を丸くしてマリアーナのほうをふり返った。そんな妖精たちにマリアーナは小さく手を挙げて言った。
「私、竪琴弾けるわよ」
「えっ?」
「本当か?」
「嘘だと承知しないぞ」
 一人はさらに驚き、もう一人は嬉しそうに、残りの一人は疑いの目でマリアーナを見た。マリアーナは頷いた。そしてたき火の元から竪琴を持ってきて一小節を弾いた。すると三人の妖精は「おおー」と拍手をした。
「この人の子なら任せてもいいんじゃないか?」
「いいかもしれない」
「いいと思う」
 妖精たちは早速マリアーナに楽譜を渡してくれた。とても小さく見づらかったがなんとか読めた。
「今日は満月だしみんなで踊ることになっていたんだけれど、一人が体調を崩したんだ。きみがいてくれてよかったよ」
 妖精の一人が言った。妖精たちについていった。そこは岩と岩のすき間の前で妖精たちが集まっていた。マリアーナを見て集まった妖精たちは「あら、人の子よ」「珍しいわ」と口々に言っていた。
「お待たせした。今夜は人の子に助力してもらうことになった。さあ好きなだけ踊ってくれ」
 マリアーナと妖精たちは顔を見合わせ、トンットンっとリズムを二回とってから演奏を始めた。

 はじめはフルートから。妖精のフルートは草の茎から作られているようだった。ガーベラのようにしっかりとした茎だった。ピーと高い音が響く。草のフルートがメロディーを奏でだすと、バイオリンが混ざり始めた。弦はマリアーナから見るととても弱そうで、おそらく植物の繊維だろう。その弱そうな弦から出ているとは信じられない力強い音だった。その音色の美しさはマリアーナたち人間が使っているものに勝るとも劣らない。次にアコーディオンが鳴らされる。呼吸をしているような、どこか生きているような雰囲気のするその楽器は温かみがあった。そして竪琴の、マリアーナの順番がやってきた。渡された楽譜を念のために側に置いておく。ポロロンッと竪琴を鳴らす。サビに近づくとメインのメロディーはフルートから竪琴へと変わっていく。竪琴の弦をはじき押える。メロディーがゆったりしたものから軽快なものへと変わる。妖精たちのダンスもくるくるとその場で回り、踊る相手がころころ変わる。踊っている妖精たちだけでなくマリアーナも楽しくなってきた。マリアーナたちは一晩中曲を奏で続けた。

 気が付くと朝日が昇っていた。
「わあ、もう朝だ。そろそろお開きにしよう」
 踊っていた妖精の一人が言い出した。妖精たちは「そうしよう、そうしよう」とぞろぞろと帰って行った。
「人の子、君のおかげで助かったよ」
「礼を言う」
「ありがとうね」
「こちらこそ楽しかったわ。ありがとう」
 マリアーナと三人の妖精はその場で別れた。マリアーナは大きく伸びをした。太陽の光が眩しい。


「はあ、ちょっと疲れたけど楽しかった」
マリアーナは一睡もしないまま朝ごはんを食べて荷物をまとめた。そして旅を再開した。彼女が歌とともに語る妖精との一夜の出来事は、人々を魅了した。

作者紹介

≪作者名≫
翼 翔太

≪作者連載先≫
・TwitterID:@tubasa_syouta

≪他サイトで連載中の作品≫
・「ほおずきのランプ亭」: http://chillin.tutakazura.com/index.html(サイト)
             https://www.alphapolis.co.jp/novel/100153681/321198462(アルファポリス)
・「悲しみは純白」:http://chillin.tutakazura.com/index.html(サイト)
   https://www.alphapolis.co.jp/novel/100153681/822075276(アルファポリス)

≪作者紹介≫
仮面ライダー、戦隊を糧に日々を過ごしています。
現在『読み処Larus』という小説サイトを運営中。
また小説のお仕事を募集しております。あなたが読みたいファンタジー小説、恋愛小説をお書きします。サイトのメール、TwitterのDMのほか、SKIMAやココナラでもお請けしています。

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