魔女の願い

巫夏希様作品

鬱蒼と生い茂った森の中、私は歩いていた。
どんな願いをも叶えてくれるという、魔女を探して旅をしていた。
どんな願いをも叶えてくれる、というのだ。代償は今更惜しむこともあるまい。しかしながら、命を授けよ、と言われたらどうすれば良いだろうか。私は考える。私は悩む。流石にそこまで言ってこないかもしれないが、しかしながら、相手は魔女だ。所詮、この世界では影を潜めて生きている人種に過ぎない。その魔女がどんな願いをも叶えてくれるというのだ。

「魔女に叶えて貰う願い……」
私の身体は、病に冒されていた。
だから、その病を治して貰いたくて、私は旅を続けていた。
医者からはそんなものは辞めて西洋療法に頼るしかない、と言っていたが、所詮は西洋療法。治ると言われてもたかがしれている。
私の望みは、この病の完治だ。
その為なら、どんなものでも投げ打とうじゃないか――私はそんなことを考えながら、鬱蒼と生い茂った森の中を歩いていた。

「……者よ」
声が聞こえた。
「……誰!?」
私は、声のした方向を振り返ろうとする。
しかし、その方向には誰も居ない。
「……この地をおとずれし者よ……」
「まさか、あなたは……魔女?」
私の言葉に、その声は答えなかった。
「……私は、魔女。この地を統べる者……。あなたはいったいどうしてこの地にやって来たのですか」
「教えて、魔女! 私は、あなたに願いを叶えて貰いに来たの!」
「願いを……叶えに?」
「そう! あなたなら、どんな願いをも叶えてくれると、誰かが教えてくれたから!だから、私、あなたに会いに来たの」
「私に会いに来た、ということは……それなりの覚悟が必要ですよ」
「分かっている! だから、私はここまでやって来たのだから!」
声が止んだ。
そして、今まで出ていた霧が晴れていく。
すると目の前に、大きな家が現れた。
そこには何もなかったのに、まるで忽然と姿を見せたかのように。
「その家に入りなさい……。私があなたを待っていることでしょう……」
「…………分かった」
そう言って、私は家の中に入るのだった。

   ※

家の中は、様々な年代の家具で敷き詰められていた。私はその隙間を縫うように、歩いて行くことしか出来なかった。
歩いて行くと、やがて一つの部屋に辿り着く。
私は、ごくり、と唾を飲んで、中へ入った。
「ようこそ。魔女の館へ」
そこに座っていたのは、黒いドレスに黒いショートヘアーの女性だった。
妖艶な雰囲気を漂わせており、確かに年齢不詳、という感じがする。

「あなたが……魔女?」
「ええ、そうですよ。そもそもこの館は、魔女の館と呼んでいる。まあ、私がそう呼んでいるだけに過ぎませんけれど」 「……魔女。どんな願いをも叶えてくれるという願望器を兼ねていると言われている、古来から住むという存在。その存在は異世界の住民とも異次元の存在とも言われている……」
「あら、詳しいのね」
「私、あなたに会う為に色々と調べたのよ。その為に、ここまでやって来たんだから」
「なら、私が何を望むのかも分かっているのよね?」
「…………、」
言えなかった。
はっきりとは答えることが出来なかった。
魔女は言う。
「あらあら? まさか、魔女に何もなしで願いを叶えて貰おうなんて、そんな横暴許されるとでも思っているのかしら? 何も持ってきていない、なんて言わないわよね? あーら、言わなくても分かっているわよ。あなたの持っているものは、数日分の食料と携帯電話、それに充電用のバッテリーと寝袋ぐらいかしら。……正直言って、それが『足し』になるとは思えないのよねえ?」
「……なら、何を望む?」
「例えば、心臓とか?」
「それは嫌だ。……私は、このまま生き続けていたいの」
「じゃあ、どうする? 心臓が嫌なら……肝臓とか、腎臓とか」
「そういう、痛いのは勘弁願いたいわ。そもそも、私の身体は病に冒されている。だから、あなたにあげても、きっと使い道がないわ」
「でしょうねえ」
魔女は全てお見通しだった。
だったら、そんな質問しなくても良いだろうに、と私は思った。
けれど、魔女は話を続ける。
「どんな願いを叶えて欲しいの?」
魔女の言葉に、私は一歩前に出た。
「私は……この身体を蝕む病、それを治して欲しい。その為なら、どんなものでもあなたに与えましょう。そう、この命以外なら、どんなものでも」
「命以外なら……ねえ。普通は命を貰い受けるものじゃない?」
魔女は煙管を口につけて、そう言った。
でも、私の意思は変わらない。
「分かった。分かったわよ。あなたの願い、叶えてあげるわ」
「ほんとうに!?」
「ええ。その代わり……私の願いも叶えて貰うわ。それで良いわね?」
「あなたの……願い?」
「何。まるで魔女にはそんなことないみたいな言い方して。魔女だって困っているのよ、結構。魔法が使えるから良いじゃないか、って? 馬鹿馬鹿しい。私に言わせてみれば、魔法が使える『今』が一番暮らしづらいわよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなのよ。あー、面倒臭い」
「それで? あなたの願いって?」
「私の願いはね…」

  ※

そして、今。
魔女に願いを叶えて貰って、今私は都内のアパートに暮らしている。
一人じゃないわ。もう一人の同居人が待っているのだ。
「ただいまー!」
「遅かったわね。……ご飯、もう出来ているわよ」
「おっ。ありがとうー!」
魔女の願い。それは、『一緒に過ごす仲間』が欲しかったとのことだった。
魔女は長生きだ。だから、一緒に過ごしたくても、長生きできなければ意味がない。
だから、私の身体も、ちょこっとだけ長生きして貰うことが出来た。病気に罹らなければ、百五十歳ぐらいまでは生きるらしい。何それ、世界新記録狙えちゃうじゃん。
「何よ。私の顔、じっと見て」
「うん? えへへ。魔女も人間と変わらないんだな、って思って」
「そりゃそうよ。……私、煙草吸ってくるから」
そう言って、煙草の箱を持って外に出る魔女。
……そういうところはちゃんとしているんだよなあ、魔女も人間も変わらないや。
そんなことを思いながら、私は魔女の作った夕飯にありつくのだった。

作者紹介

≪作者名≫
巫夏希

≪作者連載先≫
下記に連絡先を記入ください。
・TwitterID:natsuki_miko
・ホームページURL:http://knkawaraya.net/

≪作者紹介≫
趣味で小説書きをしている者です。
仕事で小説を書いたり、趣味で小説を書いたり、最近はゲームにも手を出しました。
人生って大変だなあ、と思う今日この頃。
小説家になろうで多数作品掲載中です。https://mypage.syosetu.com/141817/

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