天空都市

巫夏希様作品

天空都市マヌエラ。
その都市には、どんな金銀財宝をもしのぐような宝が眠っていると言われている。
「天空都市マヌエラ……」
白いワンピースを着た少女は、崖の上からマヌエラを眺めながらそう言った。
「気になる、かね?」
隣に立っている老齢の男性が、ひいふう息を立てながらそう言った。
男性は研究者だった。古くより天空都市マヌエラを研究し、いつかはマヌエラに向かいたいと思っていた。
そして、今、幻と言われていたマヌエラの場所をとうとう発見したのだ。

発見した理由は、一人の少女だった。
少女は王都のとある宿屋に居た。まるで召使いのような存在だったが、彼女は戯言のように、ぶつぶつと呟いていた。
何を?
答えは簡単だ。天空都市マヌエラについてだった。
マヌエラは古代語で『素晴らしい場所』という意味を持っている。
そんな――素晴らしい場所には何があるのだろうか?
男性は常日頃からそんなことを考えていた。
しかしながら、マヌエラの場所は何処にあるか分からなかった。
そんな中出会ったのが、彼女だった。男性は宿屋の主に言って、何とか彼女を解放。そして、彼女がふらついて何処かに出かけていくのをそのまま追いかけていく形で、マヌエラの場所を探すことにしたのだった。


そして、それから半月の年月が経過した。
「まさかこのような場所にあるとは……!」
森に囲まれた、谷にそれはあった。
谷も霧に覆われており、簡単に見つけることが出来ないような仕組みになっている。
否、そうだからこそ、今までこの場所は誰にも見つかることはなかったのだろう。
「……この場所は、この場所に、天空都市マヌエラが存在していたのか……!」
「行きましょう」
少女は告げる。
少女はふらふらとした足取りで崖を降りていった。
「おい、何処へ向かう! ……おい!」
言わずとも。
男性には分かっていたことだろう。
彼女が何処へ向かうのか。彼女が何をするべきなのか。彼女が何のためにここに居るのか。
「……彼女には何が見えているというのだろうか」
男性には分からない。それがどんなものなのか――男性には分からないのだった。

   ※

天空都市マヌエラの直下には、小さな祠があった。
石造りで出来たその祠には、石版のようなものが設置されていた。
「石版か……。ふむ、これは古代語で書かれているようだが」
「あまたの水が流れゆく」
「?」
彼女は、言葉を紡いでいた。
「水は重なり、塔となる」
祠の周囲にあった水が、まるで『彼女の声に呼応しているかのごとく』、生き物のように動き出した。
そして、それはやがて一つの塔を作り上げていた。
そして、塔の中に入っていった彼女は、そのまま水の板の上に乗った。
「お、おい! ちょっと待ってくれ」
「さあ、動き給え。世界の仕組みよ」
ぐんっ! と。
動き出した水の板は、ゆっくりと上に上がっていった。
「お、おい! 待ってくれ、待ってくれってば!!」
男性は何とか水の板にしがみついて乗ることが出来た。
「ひいふう……。待てと言っただろうに」
「何故、あなたは乗る?」
「え?」
「何故、あなたはこれに乗る、と言っているの」
「そ、それは簡単だ。天空都市マヌエラにあると言われる金銀財宝を……いや、正確に言えば、歴史的遺産を追い求めているというのだ。歴史的価値のある遺産を見つければ、金銀財宝に勝るとも劣らないものが得られるだろう!!」
「ふうん、そうなんだ」
「そうなんだ、とは何だ! そうなんだ、とは! 私達は世界の歴史が動くかもしれないという出来事に関わっているのかもしれないのだぞ!」
「そんなこと、どうでも良い」
彼女は呟く。
「あの場所に戻れれば、私はどうだって良い」

   ※

エレベーター……と呼べば良いのだろうか。水の板はぐんぐん高度を上げていく。
「どういうことだ、なんたることだ……。いったい、どうやってこの仕組みは動いているのだ……!」
「仕組み、それは分からない。古代文明の技術、と言えば良いかな」
少女の言葉は、男性の得たい回答にはなっていなかった。
技術的なことを出来れば知りたかったのだが、それは一人の少女に教えて貰うというのも、何だか酷というものだろう。だとすれば、知るためには――この先に向かわなくてはならない。この先にあるという――天空都市マヌエラに。
「着いた」
少女は言った。
それを聞いて、男性はすっくと立ち上がる。
そこにあったのは、駅のホームのようなたたずまいをした建物だった。その建物を見て、男性は訳が分からなかった。その風景はバロック建築にもゴシック・リヴァイバルにもインド建築にも違う、何か別の雰囲気が感じられた。
「少なくとも十六世紀より昔からこの場所は断絶されていた、ということか……?」
「あなたとは、ここでお別れ」
そう聞いた男性は、水の板から降りようとしていた矢先に。
とん、と胸を押された。
そして、そのまま水のパイプを落ちていく。
重力は逆らわない。
重力が逆らうことはない。
「どうして……」
「私にしか、この場所を踏み入る権利は与えられていない。そう、命じられている」
「誰に――っ!」
落ちていく。
落ちていく。落ちていく。落ちていく。落ちていく。
男性はそのまま落ちていく。
そしてそのまま彼女の姿が小さくなって――見えなくなるまで、男性はただ眺め続けるのだった。

   ※

後日談。
というよりはただのエピローグ。
宿屋で酒を飲んでいる男どもの話を聞いてみることにしよう。
「それでさ。……天空都市ってのがあるらしいんだよ。金銀財宝、何でもかんでもその場所にはあるらしいんだ」
「何だよそれ。噂程度の話じゃねえのか?」
「それがそうだと思っていたんだけれどさ。俺もついこないだ大学っちゅう場所に行ってみたんだけれどよ、そこに先生が居るんだよ。天空都市に唯一行ったことのある先生が」
「学者先生が言ったことなんてデタラメなんじゃねえのか?」
「それもそうでさ。ずっと戯言をぶつぶつ呟いているんだと。けれど、研究はずっとその天空都市についてやっているようでよ。俺も怖くて怖くて。でも、その学者先生の戯言を並べるとこうなるんだよ」
――天空都市には今も少女の笑い声が響いている。私もいつか行くことが出来るだろうか。
って。

作者紹介

≪作者名≫
巫夏希

≪作者連載先≫
・TwitterID:natsuki_miko
・ホームページURL:http://knkawaraya.net/

≪作者紹介≫
趣味で小説書きをしている者です。
仕事で小説を書いたり、趣味で小説を書いたり、最近はゲームにも手を出しました。
人生って大変だなあ、と思う今日この頃。
小説家になろうで多数作品掲載中です。

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