花と少女

巫夏希様作品

少女には、不思議な力がありました。
それは、彼女の手が触れた場所に花を咲かせるという能力でした。
彼女の力を見たマスコミは、彼女の力を大々的に取り上げました。
彼女の力を見た科学者は、彼女を調べようとしました。
しかしながら、それは適いませんでした。
彼女を守っていた、一人の老齢の女性が居たからです。
「ねえ、おばあさん。どうして私は外に出られないの?」
「あなたを守るためなんだよ。仕方ないんだ。許しておくれ」
おばあさんの言いつけを、彼女はしっかりと守っていました。

そんなある日のことでした。おばあさんが外に出ている間、彼女が外を眺めていると、突然ボールが飛び込んできました。
何か入ってきた、と思った彼女でしたが、直ぐに、
「おーい、すいませーん! 今、そこにボールが入っていったと思うんですけれど!」
声がして、彼女は窓から外を眺めました。

彼女の家は、彼女の力で色とりどりの花々が咲いている、とても綺麗な家でした。
同時に、鬱蒼と生い茂った草花で、とても陰鬱とした雰囲気を漂わせていました。
外に出よう? どうしよう? と思っていた彼女でしたが、窓から外を眺めていると、彼が塀をよじ登っているのが見えました。
「危ないよ! おばあさんに見つかったら、大変なことになるから……」
「でも、そのボールは大切なボールなんだ。決してなくしちゃいけないボールなんだよ……」
そう言われてしまえば。
彼女は、そのボールを拾うと、下に降りていきました。
そして、ロックを外して、ドアを開けます。
外に出るのは、とてもとても久しぶりでした。
彼女を取り囲むカメラもありませんでした。
彼女を取り囲む白衣の姿もありませんでした。
彼女はボールを持って塀をよじ登っている彼に見せました。
「ありがとう。持ってきてくれたの?」
塀を降りると、彼女は笑みを浮かべて頷きました。
しかし、彼はそこで気がついたのです。
彼女の進んできた道のりに、草花が生い茂っていることに。
「これは、君がやったの?」
指さします。振り返ると、彼女は顔を赤らめて、急いで家の中へ入っていきました。
彼は、彼女のことを知らなかったのです

   ※

彼女は、おばあさんに少年と会ったことは言いませんでした。
言ったら何をされるか分からなかったからです。
彼女は、おばあさんに怯えていました。
けれども、同時に、助けを乞うていました。
「……おばあさん」
「どうしたんだい」
彼女のことを、名前では呼びません。
どんな名前を付けられたのか、忘れてしまったぐらいです。
だから、彼女は言いました。
「ううん、何でもないわ」
と。

   ※

「じゃあ、ハナって名前はどう?」
彼女と少年の付き合いはそれから長く続きました。
そして、少年は知ってしまったのです。
彼女の白いワンピースから透けて見える、数多くの傷に――。
「ねえ」
少年は言いました。
「逃げようよ、ここから二人で」
その言葉に、彼女は頷くことしか出来ませんでした。

   ※

逃げました。
逃げて、逃げて、逃げ続けました。
けれど、少年と少女の逃避行なんて、長くは続きません。
二日もしたら、彼女の能力――花を咲かす能力――で見つかってしまうのでした。
ワイドショーやニュースに引っ張りだこの彼女の出演を、もはや止める者は誰も居ません。
少年は家に帰されて、両親に叱られて、それでも彼女のことを忘れられませんでした。
ある日、少年は少女の姿を見ました。
「ハナ……!」
しかし。
少年が見た少女の姿は――車椅子に乗せられた彼女の姿でした。
「……え?」
「ハナといったかね。あんた」
車椅子を押しているおばあさんは、少年に言いました。
「彼女。いいや、こう言うのも随分と久しぶりな気がするけれど、彼女は――と言うんだ」
初めて聞いた、彼女のほんとうの名前。
出来ることなら、このタイミングでは聞きたくなかった、その名前。
「あんたと一緒に旅をして、その結果、マスコミに捕まった。その後、私が何とか助け出すまで、こいつはまるでモルモットみたいな扱いを受けた。見てみろ、この腕を」
見ると、彼女の右腕は、義手になっていました。
「……どう、して?」
「平和を語る研究だか何だか知らないがね。人間の腕を喜んで切り落とすような人間は人間じゃないよ。私が言える立場でもないかもしれないがね!」
「……おばあさんは、これからハナをどうするつもり?」
「そうさね。こいつで一儲け出来たから、私はしばらく隠居することにするよ。まあ、死ぬまでは問題ないだろうがね。ふぇっふぇっふぇ」
そう言って。
彼女を家へと運んでいったおばあさん。
それを――彼はただ見送ることしか出来ませんでした。
「そんなこと、許さない」
「あ?」
「許さない、って言っているんだ」
「じゃあ、どうするかね? 彼女を解き放つか? この世の中では、ただの珍しい見世物として扱われるだけのこいつを!? いつまで私が無事に育ててやったと思っている!」
「でも……それは、間違っている。間違っているんです」
「ああ、間違っている。間違っているとも。けれどね、これはもう変えられない事実なんだよ。あんたがどうこうしようったって、無駄さ。彼女の心はもう、帰ってきやしないんだからね」
そう言って。
おばあさんは、彼女を家の中に運んでいきました。

そうして、少年は二度と、彼女に会うことは出来なくなりました。

これは、少年と少女の、懐かしくも少しほろ苦い思い出。

作者紹介

≪作者名≫
巫夏希

≪作者連載先≫
・TwitterID:natsuki_miko
・ホームページURL:http://knkawaraya.net/

≪作者紹介≫
趣味で小説書きをしている者です。
仕事で小説を書いたり、趣味で小説を書いたり、最近はゲームにも手を出しました。
人生って大変だなあ、と思う今日この頃。
小説家になろうで多数作品掲載中です。

巫 夏希

コメント

タイトルとURLをコピーしました